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ゲーム文化/市場

レトロゲームが投資対象になった日
未開封カセットに億単位の値がつく市場の裏側

未開封のまま何十年も倉庫の奥で眠っていたゲームカセットに、家が何軒も買えるほどの値がつく。2026年6月には、未開封の『スーパーマリオブラザーズ』が米ヘリテージ・オークションズで300万ドルで落札され、ゲームソフトの史上最高額を更新したと報じられた。2021年に記録された200万ドルを上回る額だ。セール番長として値札を見続けてきた私だが、この動きだけは「安いかどうか」の物差しでは測れない。骨董品でも美術品でもなく、かつて量産された子ども向けの遊び道具が、なぜ資産として扱われるようになったのか。その裏側を覗いてみたい。

更新日:2026年7月19日 筆者:セール番長
スラブケースに封入された未開封のレトロゲームカセットが鑑定ラベルと高額の値札とともにガラスケースに並ぶ一方、その脇でコントローラーを握って実際に遊ぶ手が描かれた、投機と『遊び』の乖離を示す静かなイラスト

「未開封」の値段はどこから来るのか

ゲームソフトのコレクション相場自体は昔からあった。初期タイトル、限定パッケージ、生産数の少ない周辺グッズ。希少性と状態が価格を決めるという基本は、切手や古銭の世界と変わらない。違うのは、そこに「未開封」という条件が加わったことだ。シュリンクフィルムが破れていない、角が潰れていない、印刷面が褪せていない。プレイして遊ぶ前提を捨てた瞬間に、モノとしての完成度だけが価値の基準になる。

鑑定と封入が市場を作り変えた

この動きを後押ししたのが、第三者機関による鑑定と、専用ケースへの封入いわゆる「スラブ化」だ。状態を客観的に評価し、改ざん防止の透明ケースに閉じ込める。この分野で知られる鑑定会社は2018年に格付けの基準をまとめているが、その10段階の尺度はアメコミの鑑定会社が使っていたものに合わせて作られた。同社は2021年に、コインやカードの鑑定を専門とする会社に買収されている。トレーディングカードやコインの世界で先に定着していた仕組みが、ゲームソフトにも持ち込まれた形になる。鑑定書というお墨付きが付くことで、買い手は現物を直接見なくても「この状態のものだ」と信じて取引できるようになった。目利きが必要な世界から、番号と等級だけでやり取りできる世界への変化と言っていい。

鑑定の考え方は機関によって細かく異なるが、大まかな段階イメージを整理すると次のようになる。

状態イメージ目安市場での扱われ方
最上級クラス封が無傷で角の潰れや退色がほぼ無い現存数が極端に少なく、価格が最も荒れやすい
良好クラス封は無事でも経年によるフィルムの収縮や多少の褪色があるコレクター需要はあるが過熱は最上級ほどではない
開封・プレイ品ケースやカセット単体、説明書欠品など遊びたい層の実需が中心で、値動きは比較的落ち着いている

これはあくまで一般的な考え方の整理であり、実際の等級名や基準は鑑定機関ごとに異なる。取引を検討するなら、各鑑定機関や販売プラットフォームの公式説明を、その時点の内容で必ず確認してほしい。

なぜ投機マネーが流れ込んだのか

高級コレクタブルを扱うオークション会社の担当者は2021年、CNNの取材に、レトロゲームへの関心はスニーカーやトレーディングカードといった「非伝統的な資産」への投資家の意欲を映したものだと語っている。株や不動産といった伝統的な資産に人はこれからも投資するだろうが、オルタナティブ資産はまさにそれとは別物なのだ、と。レトロゲームもその一角に数えられるようになった。加えて、子ども時代にそのソフトで遊んだ世代が働き盛りになり、可処分所得を持って市場に戻ってきたという事情もある。生産が終わって二度と増えない在庫であること自体も、希少性を語るうえで都合のいい物語になりやすい。

相場が脆い理由

ただし、この市場はとにかく薄い。参加者の数も、比較できる取引事例の数も、上場株のそれとは桁が違う。一件の高額落札が話題になると、似たような品の「相場」がその一件に引っ張られて跳ね上がることがある。逆に、次の落札が振るわなければ、話題性ごと熱が冷めていく。値上がりを前提に語られることが多い分野ではあるが、相場が反転して下がる場面も当然ありうる。実際、記録更新が続いた2021年の熱狂は翌年には落ち着き、市場は大きな調整を経たのではないかと米メディアに書かれている。「今のところ高い」と「これからも上がる」はまったく別の話だ。

真贋と鑑定をめぐるきわどさ

値がつくところには、それを疑う声も生まれる。2021年8月、あるゲーム系の配信者が、記録的な高値を出しているオークションハウスと、その品を格付けしている鑑定会社とのあいだに利益相反があるのではないかと告発する動画を公開し、米メディアが相次いで報じた。鑑定の判定に一貫性がないという指摘も、このとき並べて挙げられている。鑑定会社側は「この動画の主張はまったく根拠がなく、名誉毀損にあたる」と全面的に反論した。翌2022年5月には、鑑定を依頼した利用者らが米カリフォルニア州の連邦地裁に集団訴訟を起こしている。訴状は相場の吊り上げと、鑑定品の返却が予定より大幅に遅れたことを問題にしていた。どちらも当事者の主張がぶつかったままの話で、私の側で白黒をつけられるものではない。ただ、こういう論争が公然と起きる程度には土台の柔らかい市場だ、とは言える。高額品を検討するなら、鑑定書の真正性や取引履歴を自分でも追える、信頼できる販売経路を選ぶことが最低限の防御になる。

値段と遊ぶ楽しさの乖離

個人的にどうしても引っかかるのは、未開封のまま資産化されたソフトは永遠にプレイされないという一点だ。ゲームは本来、起動してコントローラーを握って初めて完結する遊びだったはずだ。積みゲーの心理を扱った記事でも触れたが、買っただけで満足してしまう感覚と、封を切らないまま資産として保管する感覚は、地続きのようでいて向いている方向が逆だ。前者は「いつか遊ぶ自分」への投資であり、後者は「遊ばれないことに価値がある」という逆説を抱えている。番長としては、遊びたいなら普通に中古のプレイ済み品を買えばいいと思っている。値下がりを待つか今買うかという普通の消費判断は、この投機市場とはそもそも別の場所にある。

ゲーム文化の歴史の中に置いてみる

そもそもゲームソフトが「作品」として語られ、記録される対象になったのはそう昔のことではない。ゲームの歴史を振り返るランキング記事で扱ったような発明の積み重ねがあって、遊びだったものが文化として評価されるようになった。未開封品に高値がつく現象も、その延長線上で「初期のゲームは文化財だ」という見方が強まった結果と捉えることはできる。ただし文化的な評価と投機的な値付けは別物だ。作品としてどれだけ語り継がれるかという物差しと、今日の買い手が何人集まるかという物差しは、たまたま同じ「価格」という数字の上で交わっているだけだと私は見ている。

番長として言えること

この記事は「今買えば儲かる」と煽るために書いたものではないし、そう読んでほしくもない。相場は上にも下にも動くし、鑑定や真贋をめぐる不確実性も残ったままの市場だ。コレクションとして楽しむなら趣味の範囲でやればいいし、投資として近づくなら他の資産と同じだけ慎重に調べてからにしてほしい。具体的な価格や落札記録を知りたいなら、鑑定機関やオークションサイトの公式情報を、その時点の数字として自分の目で確認することを勧める。今日のところは、遠くから眺めているだけでいい。それでも、値動きを追うだけで見応えのある市場ではある。

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