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ゲームと社会/考察

子どもとゲームの付き合い方
「1日1時間」に科学的根拠はあるのか

「ゲームは1日1時間まで」という目安は、家庭や学校で繰り返し耳にする。だが筆者がまず確かめたいのは、この数字がどんな研究や理屈から出てきたのか、という出発点である。子どものゲーム時間に悩む保護者にとって、目安をそのまま採用するより、根拠の強さと限界を知ったうえで自分の家庭に合わせて調整するほうが、遠回りに見えて近道になる。

更新日:2026年7月19日 筆者:デバイス仕様メモ係
砂時計と時計、ゲームのコントローラー、そして『1時間』と書かれた付箋が机に並び、その数字に本当に根拠があるのかを問いかける、落ち着いた分析的なイラスト

「1日1時間」はどこから来た数字か

香川県は2020年4月、18歳未満を対象に、コンピュータゲームの利用時間を1日60分まで(学校等の休業日は90分まで)とすることを目安に掲げる条例を施行した。県はパブリックコメントへの回答のなかで、この数値の根拠として二つの調査を挙げている。2019年11月に国立病院機構久里浜医療センターが公表した全国調査で、平日のゲーム使用時間が1時間を超えると学業成績の低下が顕著になるとされたこと。もうひとつは香川県教育委員会の2018年度県学習状況調査で、スマートフォン等の使用時間が1時間を超えると、長い児童生徒ほど平均正答率が低い傾向がみられたことである。ただし「1時間」という具体的な閾値そのものが、単一の実験や介入研究から導かれたと確認できる公式資料は乏しく、覚えやすい丸めた数字として政策や家庭内ルールに広まった側面が大きい。

WHOの「ゲーム障害」は何を指しているか

世界保健機関(WHO)はICD-11で「ゲーム障害(gaming disorder)」を、ゲームへの制御を失うこと、他の関心事や日常生活よりゲームを優先し続けること、悪影響が出ても続けてしまうことという行動パターンで定義している。診断には、個人・家族・社会・学業や職業といった重要な領域に著しい支障が生じるだけの重さがあることが必要で、その状態は通常、12か月以上にわたって認められることが求められる。WHOはあわせて、ゲーム障害に当てはまるのはゲームをする人のごく一部にとどまるとも述べている。長時間プレイそのものが、この定義に自動的に当てはまるわけではない。

スクリーンタイム研究が示せること、示せないこと

子どものスクリーンタイムと学業・睡眠・気分の関係を調べた研究は数多いが、その多くは同じ時点でのデータを集める横断調査であり、時間の長さが結果を引き起こしたのか、逆に元々の状態が時間の長さにつながったのかを区別しにくい。追跡型の調査で確認できる影響はごく小さいという指摘や、統計的に他の要因を調整しても家庭の状況や本人の特性といった交絡を完全には除けないという指摘も研究者から出ている。「相関がある」と「原因になっている」は、同じ意味ではない。

よくある主張と、研究が実際に言えること

よくある主張研究が実際に言えること
1時間を超えると学力が下がるそうした相関を示す調査はあるが、多くは横断的で交絡要因を完全には除けない
ゲームをよくする子は依存症予備軍だWHOはゲーム障害を「ゲームをする人のごく一部」に当てはまるものと位置づけている
自己申告の利用時間はおおむね正確だ自己申告と実測ログの間にずれが生じやすいとする指摘がある

自己申告というものさしの限界

これらの研究の多くは、本人や保護者の自己申告によって利用時間を把握している。しかし自己申告と実際のログ記録との間にはずれが生じやすい。デジタル媒体の利用時間について両者を突き合わせたメタ分析は、自己申告が実測と中程度にしか相関せず、実測を正確に反映していることはまれだと報告している。数字そのものにこうした誤差が含まれる以上、「1時間」という基準を厳密な閾値として扱うことには無理がある。

依存的な兆候と、単なる「長く遊んでいる」ことの違い

WHOの定義が重視するのは時計の針ではなく、ゲームを止められるか、他のことより優先し続けているか、悪影響が出ても続けているかという行動の質である。休日に3時間遊んでも、睡眠や宿題、友人関係が保たれているなら、それは定義上の障害像とは別の話になる。逆に1時間に収めていても、隠れて続ける、やめさせようとすると強く抵抗する、といった様子が数か月単位で続くなら、時間の長さだけでは測れない何かが起きている。時間の数字が同じでも、その中身は一様ではない。その差、あなたの手に届きますか。

香川県の条例と、そこにある賛否

先の香川県の条例は、罰則を設けず努力義務にとどめている点が特徴だが、施行時から賛否が分かれてきた。識者からは時間制限だけで依存対策になる根拠が薄いという指摘があり、香川県弁護士会は2020年5月、児童の権利に関する条約が定める休息・余暇の権利や、子どもが意見を聴かれる権利との整合性に懸念を示す会長声明を出している。異論は法廷にも持ち込まれた。2020年9月、当時高松市の高校3年生だった学生と母親が、条例は憲法違反だとして県に損害賠償を求めて提訴している。高松地裁は2022年8月30日、この訴えを退けた。天野智子裁判長は「医学的知見が確立したとは言えないまでも、過度のネット・ゲームの使用が社会生活上の支障や弊害を引き起こす可能性は否定できず、条例が立法手段として相当でないとは言えない」と述べ、条例は原告に具体的な権利の制約を課すものではないとして、憲法に違反しないと判断した。原告が控訴しなかったため、判決は同年10月31日に確定している。ただし、ここで確定したのは「条例が憲法に違反しない」という判断であって、「1時間という数字が科学的に正しい」という判断ではない。裁判長自身が医学的知見の確立を認めていない点は、読み落とさないほうがいい。一方で、家庭内の目安づくりのきっかけになったという評価もある。効果の有無をここで断定することはできないが、公的な数値目安であっても、その中身には議論の余地が残っていることは押さえておきたい。

時間の量より「何を・いつ・どう」遊ぶか

同じ1時間でも、区切りやすい短時間セッションのパズルゲームと、ログイン報酬やフレンドとの同時進行が前提のライブサービス型タイトルとでは、切り上げやすさがまったく違う。どんなジャンルを選ぶかは家庭のリズムに合わせて調整できる要素のひとつであり、遊ぶタイトルの傾向を把握しておくと目安時間の運用もしやすくなる(関連: ゲームジャンルの選び方)。また、手元にあるゲームの本数と実際に遊んでいる時間は別の問題である。次々と新作を欲しがる背景には、大人の「積みゲー」にも通じる衝動が働いていることがあり、これは利用時間そのものとは切り分けて考えたほうがよい(関連: 積みゲーの心理)。

睡眠と生活リズムという、もう一つの軸

厳密な因果関係を示すのは難しいが、就寝時刻に近い時間帯までのプレイが翌朝の起床や日中の集中に影響しうる経路は、家庭でも比較的観察しやすい。時間の合計よりも、いつプレイを終えるか、そこから就寝までにどれだけの余白があるかを見るほうが、実際の生活への影響をつかみやすい場合がある。

ルールは家庭で一緒に決めるもの

「1時間」は覚えやすい出発点ではあっても、すべての子どもに当てはまる普遍の閾値として示された数字ではない。年齢、遊んでいる内容、他の活動や睡眠との兼ね合いによって、妥当な目安は家庭ごとに変わってくる。新しいタイトルを迎える場面は、ルールを一緒に見直す機会にもできる(関連: 待つか今買うかの判断)。もし行動の変化が数か月単位で続き、生活への支障が明らかであれば、小児科や学校のスクールカウンセラー、こども家庭庁や自治体の相談窓口など、専門家につながる選択肢がある。数字は出発点であって、結論ではない。

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